売れるお店はここが違う -
店長が自分でする店舗診断(第10回)
著者プロフィール 角田誠(つのだまこと) 日本商業施設学会会員、商業施設士、商業施設活性化コンサルタント、一級建築士、(協)日本店装チェーン監事、(社)商業施設技術者・団体連合会関東甲信越支部副支部長 商業施設の企画、設計、施工などを多く手掛ける。ベーカリー百数十店の店づくりに携わる。「江東区魅力ある個店づくり」制度に派遣される。 株式会社第一店装代表取締役、武蔵工業大学卒業 http://www.dai1-t.com
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第6章 サービス診断(前編)
■お客様に「満足」を売る 本誌「ブランスリー2005年12月号」のなかにたいへん興味深く思わずうなずいてしまう記事がありました。「パン屋さんで『いいな』と思ったこと、『いやだな』と思ったこと」というアンケート結果の特集です。 「いいな」と思ったことのなかで、多かった回答は、「パンの良い香り」と「スタッフの接客」というご意見でした。 反対に「いやだな」と思ったことの回答で多かったのは、「不衛生な店内」と「スタッフの接客」というご 指摘でした。 「いいな」と「いやだな」の両方の理由に「スタッフの接客」があがっています。 お客様に愛されるお店であり続けるために、「おいしいパン」を提供することは、もちろん必要なことです。しかし、このアンケート結果からも明らかなように、お客様は商品そのものだけを目当てに買い物をしているわけではありません。 お客様は、お店を利用することで、目に見えない品質、「サービス」を期待しています。その「サービス」が予想以上であったならば、お客様はあなたのお店のファンになります。 しかし、期待を裏切る「サービス」であれば、そのお店に足が向かなくなるでしょう。 「商品」だけを売るのではなく、「満足」を売るようにしたいものです。 今回は、「サービス」の診断です。
■全員で元気良く「いらっしゃいませ」 お客様が一歩お店に入られたら、最初に気づいたスタッフがお客様の目を見ながら、元気良く「いらっしゃいませ」の第一声をあげます。最初の声かけが笑顔で気持ちよくできることで、あとの応対がスムーズになります。 他のスタッフもそれに続いて、お迎えのことばをかけます。 最近は、オープンキッチンのお店も少なくありません。東京都江東区の「ラ・パレット」もそんな開放感のあるお店です。 お客様が入店されるとき、厨房の一番奥で製造作業をされている店長が、ひときわ大きな声で、お迎えの声を出しています。この一声で、お客様は、気持ちよく買い物をスタートしています。 製造スタッフから「いらっしゃいませ」の声が響き渡るお店は、ほんとうにお客様を大事にしているのが伝わります。 スタッフの服装、これも大事です。統一されたユニフォームの着用を心がけたいものです。厨房の製造担当者の白衣はいうまでもありませんが、売り場の販売スタッフのユニフォームも統一します。帽子(バンダナ)とエプロンのみを揃えているお店もありますが、シャツやボトムを統一することで、「プロ集団」の印象を与えます。 ボタンや襟元などの着こなしをきちんとし、マメに洗濯された清潔なユニフォームを着用します。服装の乱れや汚れは、商品のパンに与える印象にも影響します。髪は、小さく束ねて、肩などに髪の毛が付着していないかチェックします。始業時間前に、スタッフ同士でチェックするのも良いでしょう。
■レジの順番を混乱させない 接客に対するお客様の不満のトップは、レジまわりで発生します。 販売スタッフの仕事のなかで最優先されるのは、レジの作業です。お客様がレジに並ばれたなら、他の作業を中断してレジに対応します。 一つのレジに3人以上並んだ場合、他のレジが空いている場合は、レジを開けるようにします。そのとき「次にお待ちのお客様、こちらのレジにどうぞ」と手を伸ばしてトレーを受取りながらご案内します。 レジの順番待ちに気づかずに、横から入ってこられるお客様がいます。その場合は、「お並びいただいておりますので、申し訳ございませんが少々お待ちいただけますか」と列の後ろにご案内するようにします。「○○してください」という言い方は、軽い「指図」にとられかねません。 そして、そのお客様の順番がきたときに「たいへん失礼致しました。お待たせして申し訳ございません」とひとこと付け加えます。 いずれにしても、レジの順番に混乱が生じないように、「声かけ」をはじめわかりやすいご案内の方法を考えて実践します。
■ていねいに、そしてテキパキと お客様のトレーにのせられたパンは、たとえ精算がまだであっても、お客様のものです。大切にていねいに扱わなければいけません。 「クリームやチョコが他のパンにつかないように」「柔らかいパンがつぶれないように」「焼きたてのパンとサンドウィッチなどを別々に包装する」など注意します。 レジの仕事の基本は、正確さです。特に、商品の扱いとお金の受け渡しは、ていねいに行います。 レジ打ちや包装の手際の悪さに、お客様はイライラします。日ごろの業務のなかで、いかにテキパキと素早くこなせるかを工夫します。ただ、自分の能力以上には早くこなせるわけではありません。レジ待ちの列が長くなったとしても、あわてることはありません。 大切なのは、正確に行うことと、お客様へ感謝の気持ちをきちんと伝えることです。 レジ精算で、一万円札や五千円札を 出された場合は、お互いの勘違いを防ぐために、必ず声出し確認をします。「○○円お預かりいたします」と言いながら、マグネットなどで見えるようにお札をはさみます。そして、「まず大きい方から○千円お返しします」とお札のおつりを渡してから、「おあと小さい方、○○円お返しします。お確かめください」とします。そして、すべての精算が済んだあとに大きいお札をしまいます。 おつりやレシート(必ず出します)をお渡しするときは、右手で持ち、左手をお客様の手の下に添えるようにします。 そして、最後が肝心です。商品をお客様にお渡しする場合は、両手を添えて、必ずお客様の目を見て笑顔で「ありがとうございます」と感謝を伝えます。 またその後に、もう一言を付け加えます。後ろを向いて立ち去ろうとしているお客様に、最後に自分の言葉として、声をかけるのです。「またお越しください」「行ってらっしゃい」「お気をつけてください」。お客様は、振り返り返事こそしませんが、気持ちよく買い物ができたという印象が刻まれるはずです。ぜひとも、実行してください。
■スタンプ・ポイントカードの活用 パンは、まさに習慣性の強い「最寄り品」です。スタンプやポイントカードなどのチップは、顧客の囲い込みに非常に有効です。 ときには、スタンプやポイントの点数を特別に加算することで、売り出しセールを企画できます。「ポイント2倍セール」とご案内して、週間、曜日、時間帯、天気(雨天時)など期間や条件を設定した売り込みを行います。 これらのカードを財布などに入れて持ち歩いているということは、お店に対して愛着を持っていただいている表れです。お買い物でポイントをつけるときには、「いつもありがとうございます」と感謝の一言を添えます。 いよいよポイントがたまり、決められたプレゼントや値引き特典を行うとき、絶対に「タダのお客」という対応をしてはいけません。たくさんあるベーカリーのなかから私たちのお店を選んで通っていただいたことに対して、その機会にこそ最高の感謝の気持ちを伝えます。
■お客様のご意見カード お客様の声をよいお店づくりに生かしたいものです。写真は、「お聞かせください お客様の声」カードです。専用の店内ポストに入れていただきます。 お叱りのご意見やご要望は、「もっとよいお店になってもらいたい」という前向きなものであることがほとんどです。 書かれた内容をスタッフ全員で話し合い、次のステップアップにつなげます。 連絡先を記入していただいたお客様には、店長自らすみやかに、感謝と対応策を書き入れて返事を送ります。
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