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記事の閲覧 - 店長が自分でする店舗診断(2005年9月号)
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売れるお店はここが違う - 店長が自分でする店舗診断(第4回)

著者プロフィール
角田誠(つのだまこと)
日本商業施設学会会員、商業施設士、商業施設活性化コンサルタント、一級建築士、(協)日本店装チェーン監事、(社)商業施設技術者・団体連合会関東甲信越支部副支部長
商業施設の企画、設計、施工などを多く手掛ける。ベーカリー百数十店の店づくりに携わる。「江東区魅力ある個店づくり」制度に派遣される。
株式会社第一店装代表取締役、武蔵工業大学卒業 http://www.dai1-t.com

第3章 店内診断(中編)

■お店の若さを保つ2つの要素
 新装開店したお店は、どこもピカピカに輝いています。ところが何年か経過すると、当初の輝きが全く感じられなくなってしまったお店と、時間の経過は感じられるが輝きを失っていないお店とに分かれます。
 同じような素材を使って、営業時間や来店客数に大きな違いがなくても、その両者には確かな違いを見ることができます。「お店の若さ」が違うのです。
若いお店は、その共通点として次の2つの要素があります。
 一つは、「照明」です。ランプ交換などの
メンテナンスをしっかり行い、日常業務のなかで生じたレイアウト変更などに対しても適切な対応をしています。
 二つ目は、徹底した「清掃」です。出入り口まわり、ガラス窓、店内床、什器まわり、etc、いつもクリンネス(清潔感)に気をつけていれば、美しさを保つばかりか、お店の傷みも進みません。
 今回の店内診断(中編)は、この「照明」「清掃」の2点のうち、「照明」について診断を行います。ポイントを押さえて、売上をアップし、お店の若さを保ちましょう。


?14 店全体の照度は不足していないか。近隣店舗と比べて暗くないか。
?15 基本照明とは別に、商品に対してスポット照明をしているか。
?16 ランプ切れやランプ選定ミス(色違い含む)はないか。
?17  POPやサインから照明器具まで、天井から吊っているものは安全か。
?18 無理な陳列はないか。カン、ビンなどの重い商品を強度のない什器に陳列してないか。特に什器の転倒は心配ないか。
?19 床のすべりを防ぐため、濡れた床はすぐにふき取っているか。


■売上を伸ばす照明テクニック
 ひとは、虫と同じで明るいところへ引き付けられる習性があるといわれます。お店についてもまさしくその通りです。同じ業種の2店のお店からお客様がどちらかのお店を選択する場合、まず明るい方のお店に入っていく確率はきわめて大きいものです。
 しかも、照明の明るさを示す照度(単位:ルクス)の基準値が、近年アップする傾向にあります。
 例えば、精密な事務作業をするオフィスの基本照度(JIS)は、昭和40年代において500ルクスであったのが、現在は1000ルクスです。照明学会の新基準では、1500ルクスにまでアップしています。
 ベーカリーの基本照度は、最低でも1000ルクスは必要です。1000ルクスがどのくらいの明るさかというと、昼間に外から見て全く暗さを感じることなく、一般の物販店舗と比べて明るい程度です。
 コンビニは、明るさで店舗の存在をアピールする狙いがあるので基本照度1500ルクス〜2000ルクスの設定となっています。ベーカリーの場合は、必要な基本照度を確保しながら、必要とされるポイントには、より明るく演出する必要があります。

■重点的に明るくするポイント
 店舗の照明は、全体を均一に明るくするのではなく、エリアによって明るさに変化をつける演出が必要です。
 ベーカリーの主役は、もちろん「パン」です。お各様に一番見ていただきたい主役の「パン」をもっとも明るくします。そのためにスポット照明が力を発揮します。
 いろいろな売り場を見ているなかに、多段のパン棚の各段にスリムライン蛍光灯をつけているのは良いのですが、肝心の最上段にスポット照明がないために、せっかくのおいしいパンが暗くて魅力に不足しているお店があります。店内に並んだすべての商品が、輝いて見えるように配慮します。
 そのなかでも特に、店頭エリアに並ばせる主力商品や季節商品には、基本照度の約3倍(3000ルクス以上)のスポット照明を配置することでお客様への訴求力を高めます。
 基本照明を天井面に設置しないで間接照明だけで全体の照度を確保するお店が最近増えています。ソフトな照明空間として人気がありますが、スポットライトなどを十分に併用して、平板な感じにならないようにします(写真1)。
 また、店の奥の壁面を明るくすると店頭に立ったとき、お店全体が明るく広く感じられます。このことを「サバンナ効果」といいます。これは、お客様を店内奥まで誘引するのにとても有効な演出方法です。

■目的にあわせた照明とランプ選び
 店舗の照明は、その目的から「ベース照明」「重点照明」「装飾照明」の3つに分かれます。
 (1)「ベース照明」は、必要基本照度を確保するための照明です。ベース照明には、蛍光灯やHIDランプなどの電気効率の良い照明器具を使います。最近は、省エネ型の器具の開発が各メーカーで盛んに行われています。
 省エネ型の器具は、従来型の照明器具に比べ、イニシャルコストが若干高いものですが、電気代のランニングコストの差を考えれば1〜3年で元が取れるので経済的です。
 さらに、省エネ型の器具は、発熱量が少なく、冷房効率が改善されるためダブルでお得です。
 (2)「重点照明」は、スポットライトなど、主要商品や目立たせたいエリアを重点的に明るくして、お客様への訴求力をアップさせるための照明です。
 重点照明には、ハロゲン系のスポットライトを使用します。白熱電球や蛍光ランプなどの器具もありますが、パンをおいしく見せるには、演色性の良いハロゲンランプが最適です。ハロゲンランプにも明るさ、色、口金、ビーム角度などの違いがありますので目的にあったランプを選びます。
 ただ、このときにランプの種類を増やしすぎてしまうと、ランプ交換のメンテナンス時に混乱が生じるので注意が必要です。
 (3)「装飾照明」は、コードペンダントや
ブラケットなど器具のデザインを装飾目的とする照明です。
 「装飾照明」は、ベース照明や重点照明を兼ねたりすると、肝心の商品の印象が弱くなるので、装飾目的と考えて、ベース照明や重点照明を省略しないことが原則です。
 
■ランプの寿命と交換
 蛍光灯は、使用時間の経過とともに、光の強さが弱くなっていく特性があります。
 ハロゲンランプや白熱電球のランプは、使用中に明るさの変化はなく、球がきれて点灯しなくなるときがランプの寿命です。
 しかし、蛍光灯の場合は球ぎれのほかに、当初の明るさの70%まで光の強さが弱まったときを定格寿命といいます。 その明るさは、最初の1年間で約90%に落ちるといわれます。蛍光灯は、球ぎれが起こらなくても3年に1度くらいのペースで交換をしないと知らず知らずのうちに暗いお店になってしまいます。
球ぎれが起こったら、すみやかに交換します。営業中にできなくても、その日の閉店後に取り替えます。
 また、節電のつもりなのか、営業中にもかかわらず照明の一部を点灯していないお店がありますが絶対に避けます。 お客様にお店の元気のなさをアピールしていることと同じです。明らかに不要な照明は撤去し、設置されている照明は必ず点灯します。

■すべてに優先される「お客様の安全」
 お客様にとって危険と思われる要素は、100%取り除きます。
 天井から吊ってある、サイン、POP、照明器具など落ちそうな物はないか、高い場所のディスプレイは安全か確認します。
 不安定で転倒しそうな什器がないかもチェックします。
 床の段差やすべりも危険です。出入り口の段差の場合、入店のときは難なくまたいでいただけるのですが、出ていくときに(おつりやレシートを財布に入れることに気をとられて)つまずかれることが多いものです。お客様の動きに注意してスロープを設置するなど工夫します。
 また、ビニール床材のはがれやタイルの浮き、陥没などの段差の放置が思いもかけない事故を起こしかねません。
 次回は、店内診断(後編)です。お店の若さを保つもう一つの要素「清掃」について具体的に解説します。

写真1 スポットライトが効果的な天井間接照明の雑貨店(独 ハンブルグ)



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